一緒に住みだしたものの、うちは就活でかなりの割合で東京に行っていた。
多い時には一ヶ月の半分は東京。
というわけで実際はほとんど一緒にはいなかったとおもう。
それでもNビルにいるときは、いろいろ話をしたし、
面接や試験で帰ってきて、誰かがいるというのはやはりうれしかった。
四月に入り、いよいよ就活も終盤になってきた。
そのころちょうど桜が咲き始めて、ただ花見がしたい一心で、
すごいテンションで面接をこなしていったのを覚えている。
桜が散ってしまう前に内定がでて、花見に間に合った。
内定祝いにと、Nヲは鯛の頭を炊いてくれた。
Nの決断その②はインド行きを決めたこと。
何回か書いたかもしれないが、実はこのインドの旅が一人で全部やった初めての旅。
それまではツアーだったりキャンプだったり語学学校だったりで、
一人で、いわゆるバックパッカーの旅をするのは初めてだ。
インドはどうしても行きたかったのだけども、すごく怖かった。
治安の面でもいい噂はきかないし、
外務省の渡航安全のページを見たのは帰国した後だったけれども、
インドは全域に注意が出されているし、カシミールには退避勧告。
そして、実際にインドに行った人から
インドに飲み込まれたら精神的に帰れなくなる、というのを聞いていた。
内定が出たらどこかに行きたい、とは思っていたものの、
なかなか踏み切れなかったわけである。
しかし同居人は、四月にインドに行くという。
『じゃぁデリーで待ち合わせしましょうか』
その同居人の言葉で、勢いで行くことに決めた。
四月末に、またチームメイトに迷惑をかけながら新歓に出させてもらって、
ゴールデンウィークも終わるころ、デリーへと向かった。
機内で隣の席だったのは、OL二人組み。
3泊4日でデリーとその近郊の世界遺産都市を回るという。
『一人で行くんですか?』
『あ、はい、そうなんですー一応。』
『えーっすごいですね、勇気ありますね』
『あははー
でも友達がデリーで待ってるんです』
空港のアライバルゲートには、インド人のツアーガイドたちにまぎれて、
私の名前と『Nビル』と書いたノートを持ったNヲが出迎えに来てくれていた。